2008年11月02日に移転前のサイトで更新したものです。
風邪が治らん。
「せつ、な………」
こちらに手を伸ばした青年の眼差しは、あの日とかわらずそこにあった。
*****
地震でも起きたかのような低い地響きと建物の震動。外の様子は全くわからず思わず立ち上がるも、逃げ場などあるはずもなく、マリナはまたベッドの縁に座った。しばらくそうしていても、震動は続く。
落ち着いて耳を澄ませてみると、地鳴りの他に小さく聞こえる爆撃音。
(また戦闘が始まったの……)
自分の命を心配するというより、哀しみや悔しさが勝った。すでに捕われている身で、これ以上なにがあろうと国のために何も出来ないのなら、どちらでも同じ気がした。ガンダムのパイロットの一人、刹那と会ったことについて何か話すまでは、マリナはここを出られはしない。言ったとしても彼らの側に利があることでなければずっとこのままかもしれないし、出られたところで監視の目はずっとついてまわるだろう。
マリナはカタロン達が次々に虐殺されていくのを知っていた。アザディスタンもこのまま連合国側につかなければ危ないかもしれない。それとも何十年にも渡る紛争で疲弊した国が遂に滅びてしまうのが先だろうか。いずれにせよ、マリナはどれだけ全力を尽くしてみても、ちっぽけな自分一人の力では何も変えられないとわかっていた。
たとえ自分が関与しない戦いであっても、悲しくなってしまうのはおそらく何もできなかった自分を嘆いて。それを弱さだと気づいてもいる。
刹那。一瞬にすべての力を注いで今を生きた人。今一度、その人に―――――言ってもらえないだろうか、「戦え」と。己を奮いたたさせるその一言を。
一人の足音が聞こえてきた。男一人。けれどそこには焦りの様子はない。
足音がドアの前でやんだ。すぐに外から、声が聞こえてくる。
「下がっていろ。聞こえるか。……さがれ」
「え?」
今の、声は。聞き間違いだろうか、それとも別人?
少しだけ聞こえた声は、刹那にそっくりで。
思わず一歩二歩と後ろに下がると、発砲音が聞こえた。扉の鍵を打ったらしく、続いて男が扉を開けた。
「行くぞ」
「刹那!」
差し伸ばされた手は、記憶のものよりも少し大きい。
(やっぱり、刹那、生きていた)
会いたかったその人の手に重ねた自分の手は少しだけ震えていた。マリナは導かれるままに、明るい廊下を刹那に続いて走っていく。
いくつもの角を曲がって息が切れてきたころ、ようやく二人はガンダムのもとにたどりつく。建物の破壊された箇所は戦闘の激しさを物語っていた。瓦礫の上を、刹那はマリナが歩きやすいように慎重に道を選んで歩いて行く。
「ついた、ガンダムに一緒に乗っていく。シートの後ろにつかまっていてくれないか」
「ガンダム」
天使の名のつけられた美しいモビルスーツ。
このときこのモビルスーツに込められた願いをマリナはまだ知らずにいた。
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すみません。ここで終わらせときます。
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